近年,水中ロボットへの期待が高まっており,AUV(Autonomous Underwater Vehicle)と呼ばれる自律無人潜水機やROV(Remotely operated vehicle)と呼ばれる水中ドローンなどの研究開発が盛んに行われています.これらのロボットの多くには電動のブラシレスDCモータとスクリューを組み合わせたスラスタが利用されており,無限回転させて水流を生み出しながら移動する仕組みとなっています.このスラスタ用モータの磁石部や銅線コイル部には,水没可能とするための防錆処理が施されています.そのため,モータ部への浸水を許容でき,OリングやVリングなどのシーリング材を用いる必要がありません.水没型モータはこれまでにも安価なものが数多く販売されており,以下の利点により利用を拡大してきました.
- 構造がシンプルであるだけでなく,電動モータを直接水に浸して冷却できるため,大きな電流を流すことが可能
- シーリング材の摩擦ロスがないため,バックドライバビリティが高く,モータ電流から出力トルクを推定しやすい
このような水没型モータに用いられている一般的なブラシレスDCモータは回転子と固定子が接触しないため,それぞれを錆びや電蝕などから防ぐことができれば,簡単に水没化できます.しかし,ロータの回転角度を何らかのセンサで検知し,それに合わせた電流を多相のコイルへ適切に流さなければ回転させることができません.これは転流(コミュテーション)と呼ばれ,水中ドローンなどでは一般的にコイルに発生する誘起電圧を利用したセンサレス転流技術が実装されています.水没型モータの多くはドローンのように高速無限回転としての利用が想定されており,このセンサレス転流技術を内蔵したESC(Electric Speed Controller)によって速度制御されるよう設計されています.
一方,水中でもロボットアームやグリッパなどのように,対象物をマニピュレーションする場合には無限回転ではなく一定の角度範囲内での関節動作が必要です.しかし,従来の水没型モータは一般的な空中ドローンと同様に高速低トルクタイプのものが多く,このような用途では,トルク不足に陥りやすく,回転速度も速過ぎます.そのため,高減速比の減速機が必要になります.また,ロボットの関節内部に角度センサを内蔵しなければならないため,相対運動部分の隙間にシーリング材を入れて浸水を防がなければなりません.その結果,防水シール材と減速機の両方の摩擦の影響を受け,関節が固くなってしまい,水中での接触作業が困難となります.空気中であれば,このような問題を力/トルクセンサフィードバックや直列弾性駆動によって解決する方法がこれまでに多数報告されています.しかし,これらを水中で利用するためには力/トルクセンサや弾性体への浸水を防がなければならなりません.
そこで本研究では,モータだけでなく減速機にも防水シールを用いない水没型ギアード電動サーボモータを提案しています.この水没型ギアード電動サーボモータは以下の特徴を有しています.
- ブラシレス DC モータの転流と角度(角速度)制御を 1 つの磁気式エンコーダで行うことにより,センサの防水箇所が最小限である
- 減速機に低摩擦且つ耐熱性の良い高分子材料を,軸受にセラミックベアリングを用いることで潤滑油フリーである
- 上記の減速機利用と防水シールレスにより,伝達効率が向上するため,従来の水没型モータと同様にモータ電流から出力トルクを推定しやすい
- 従来の水没型モータと同様にモータが直接水に触れることで自然水冷となるため,大電流を流しやすい
- 減速機が直接水に触れることで自然水冷となるため,上記減速機の熱による変形を防ぎやすい
※本成果は,立命館大学グローバルイノベーション研究機構の川村貞夫特別招聘研究教授や龍谷大学の坂上憲光教授との共同研究の結果,生まれたものです.また,科学研究費助成事業(基盤研究(B))「トルクセンサレス・シーリングレス水陸両用柔軟アクチュエータの基礎研究」22H01456の支援を受けました. 本研究の減速機にはスターライト工業株式会社製のS-BEAR DD4830を用いています.
関連文献
- 加古川篤,児島隆弘,森佳樹,川村貞夫,坂上憲光,防水シールを用いない水没型ギアード電動サーボモータによる水中力制御,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会 2022,2P1-L01,2022
- 加古川篤,村田彩夏,坂上憲光,馬書根,潤滑油とシーリングを用いない水没型ギアード電動サーボモータの電流ベーストルク制御の性能評価,第40回日本ロボット学会学術講演会,2G3-04,2022