本研究室では,長年に亘り老朽化した配管設備を点検するためのロボット研究を行なってきました.しかし,仮に破損箇所や老朽箇所をカメラなどで特定できたとしても,入口から見てどの位置にあるかがわからなければ効率的な補修・交換作業は困難となります.特に高度経済成長期前後に敷設された配管の図面には経路の長さや屈曲部の位置などの情報が欠落していることが多く,そもそも図面自体が存在しないケースも少なくありません.そこで本研究では,配管の経路情報をロボットの移動とともに数値化し,可視化する技術について研究を行なっています.
配管経路の数値化については配管内走行ロボットに数種類のセンサを搭載する方法が多数報告されています.しかし,我々が対象とする配管内径は4インチ(約10 cm)以下です.そのため,空間的制約からロボットに複数のセンサを追加することは難しくなります.そこで本研究では,配管内走行ロボットにセンサを搭載するのではなく,ロボットに牽引される形で移動距離や姿勢などを計測可能な被牽引センシングユニットを開発しました.
この被牽引センシングユニットには,モータは一切搭載されておらず,全ての車輪は受動輪となっています.ただし,車輪には回転数を測るためのエンコーダが取り付けられているため,ユニットが引っ張られると移動距離を計測できます.また,加速度センサやジャイロセンサなどを搭載したIMU(Inertial Measurement Unit)と呼ばれる小型のチップも搭載しているため,ユニットの姿勢も計測可能です.これらの被牽引ユニットの移動距離と姿勢を逐次取得することによってコンピュータ上に3次元的な配管経路図を描くことができます.
しかし,実際に上記の方法を被牽引ユニットに実装し,ロボットで引っ張らせても得られる配管経路は実物と一致しません.これはセンサ情報に一定のノイズや誤差が含まれるためです.この問題を解消すべく,本研究では配管規格に基づく経路補正技術を考案しました.言うまでもなく,配管は人工物です.内径や曲管の曲率半径などは規格によって定められています.これらの予めわかっている情報を使って,被牽引ユニットが曲がりなどに入っても正しい経路情報になるよう補正すれば,最終的に実物に近い3次元配管経路図を作成することができます.
※本成果は,立命館大学生物知能機械学研究室との共同研究の結果,生まれたものです.また,国土交通省・下水道技術研究開発(GAIA プロジェクト)「トルク感知可能な能動関節機構およびSLAM技術を搭載した防水ヘビ型管路検査移動ロボットの開発」の支援を受けました.
関連文献
- Chihiro Hirose, Shunsuke Ota, Atsushi Kakogawa, and Shugen Ma, A Pipeline Route Drawing System Equipped with a Towed Unit with Only Low Cost Internal Sensors, IEEE Transactions on Industrial Electronics, 2024, Published Online, https://doi.org/10.1109/TIE.2024.3419240
- Atsushi Kakogawa, Chihiro Hirose, and Shugen Ma, A Standards-Based Pipeline Route Drawing System Using a Towed Sensing Unit, Proceedings of the IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS 2022), pp. 7167-7173, 2022
- 廣瀬千大,加古川篤,馬書根,被牽引式センシングユニットを用いた配管経路作図システム,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会 2022,2P1-M08,2022
- 廣瀬千大,加古川篤,馬書根,配管の長距離経路作図に向けた被牽引センシングシステムの開発,第40回日本ロボット学会学術講演会,3G2-03,2022
- 藤村遼,加古川篤,馬書根,車輪エンコーダとジャイロセンサを搭載した被牽引ユニットによる配管マッピング,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会 2021,2P3-I14,2021