低摩擦ギアード電動モータを用いたロボットアーム「ALFHA」

ロボットの機械的接触作業を可能にするための技術として,減速機摺動部の摩擦を減らす取り組みが多数報告され始めています.これには,伝達系のエネルギ散逸を減らすことで,サーボモータに古くから備わっている電流センサを利用して小さな外力を可能な限り高精度に検出する狙いがあります.小さな外力で出力軸が機械的に逆転(バックドライブ)する点も大きな特徴の1つです.これまで提案されてきた力/センサフィードバック方式や直列弾性駆動方式に比べ,新たに要素を追加する必要がないため,構造がとてもシンプルです.また,位置制御則のフィードバックゲインを変えれば関節インピーダンスを可変にすることも可能になります.

これまで,経験的に平歯車などインボリュート式の歯車を使い,減速比を10対1程度以下に設計すれば,バックラッシュ(ガタツキ)を犠牲にするものの,減速機の摩擦の影響を減らせることが広く知られていました.これは,減速機を全く用いないダイレクトドライブモータ方式(DDモータ方式)に対して,準ダイレクトドライブモータ(Quasi-Direct-Drive Motor)やProprioceptive Actuatorという名前で発表されています.

一方,減速比が50対1以上と高い場合であっても,歯の形状や表面粗さなどを巧みに設計することによって減速機の低摩擦化を達成できます.このような手法は,従来ラジコン用の小型サーボモータなどで一般的でした(意図していたかどうかは定かではありません).しかし,比較的大型のギアード電動サーボモータ用としても本方式が近年注目され始めています.

そこで本研究では,住友重機械工業株式会社と共同でトロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車減速装置(サイクロ減速機®)の低摩擦化やそれを用いた新たなロボット利用方法に関する研究開発を行っています.3-K型差動遊星歯車機構では,バックラッシュを3 arcmin以下まで切り詰めると,摩擦が増加傾向にあるのに対し,サイクロ減速機の場合,1 arcminまで高精度に作っても1 Nm程度以下の外力(トルク)でギアードモータを逆起動させられることが明らかとなりました.本方式を利用したロボットアーム「ALFHA(アルファ)」による力/トルクセンサレスアドミッタンス制御の実演を国際ロボット展2022(東京ビッグサイト)にて実施しました.ALFHAは,Arm using Low Friction and High Accuracy cycloidal geared motorsの略です.

※「サイクロ減速機」は、住友重機械工業株式会社の登録商標です.

※本成果は,2019 年度NEDO先導研究プログラム(新産業創出新技術先導研究プログラム)「多能工ロボット実現のための機械的接触基盤ロボット技術開発」の支援を受け,住友重機械工業株式会社および株式会社Keiganとの共同研究や立命館大学グローバルイノベーション研究機構の川村貞夫特別招聘研究教授との共同研究の結果,生まれたものです.

関連文献

  1. 加古川篤,川村貞夫,武居直行,徳永晋也,深澤俊樹,山本章,徳田貴司,栗本直彰,機械的接触を基盤とするロボットの事業化に向けて~低摩擦ギアード電動モータからのアプローチ~,日本ロボット学会誌,39巻,2号,pp. 125-131,2021
  2. Atsushi Kakogawa, Yoshiki Mori, Toshiki Fukasawa, Kurimoto Naoaki, Shinya Tokunaga, Takashi Tokuda, Akira Yamamoto, Sadao Kawamura, A Highly Backdrivable Robotic Arm using Low Friction and High Accuracy Cycloidal Geared Motors: ALFHA, Proceedings of the IEEE/SICE International Symposium on System Integration (SII 2022), pp. 428-433, 2022
  3. 加古川篤,深澤俊樹,栗本直彰,徳永晋也,徳田貴司,山本章,川村貞夫,低摩擦ギアードモータを用いた可変剛性ロボットアーム,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会 2021,2P3-I07,2021
  4. 加古川篤,川村貞夫,徳永晋也,深澤俊樹,山本章,徳田貴司,栗本直彰,武居直行,準DDモータを用いた機械的接触基盤ロボット技術,第38回日本ロボット学会学術講演会,2B3-06,2020

本研究の参考となった先行研究

  1. D.V. Gealy, S. McKinley, B Yi, P. Wu, P.R. Downey, G. Balke, A. Zhao, M. Guo, R. Thomasson, A. Sinclair, P. Cuellar, Z. McCarthy and P. Abbeel, Quasi-Direct Drive for Low-Cost Compliant Robotic Manipulation, Proc. the IEEE Int. Conf. Robotics and Automation, pp.437-443, 2019.
  2. P.M.Wensing, A.Wang, S. Seok, D. Otten, J. Lang and S, Kim, Proprioceptive Actuator Design in the MIT Cheetah: Impact Mitigation and High-Bandwidth Physical Interaction for Dynamic Legged Robots, IEEE Transactions on Robotics, Vol. 33, Iss. 3, pp.509-522, 2017.
  3. H. Matsuki, K. Nagano and Y. Fujimoto, Bilateral Drive Gear- A Highly Backdrivable Reduction Gearbox for Robotic Actuators, IEEE/ASME Transactions on Mechatronics, Vol. 24, Iss. 6, pp.2661-2673, 2019.
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